2015年08月07日

股関節脱臼整復・生涯1度の出来事

整骨医療の現場から・ウダ整骨院

整骨院の業務範囲というのは、通常は捻挫や打撲といった外傷性のものが多いが、 最近は脱臼とか骨折といった重傷なケースは希になった。
ぎっくり腰だとか頸の 寝違え、スポーツ傷害、交通傷害などに次第に変わりつつある。


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もう髄分と以前のことであるが、私が北部九州のある整骨院に勤務していたころの思い出である。

それは八月に入ったばかりの、暑い朝の出来事であった。

けたたましい救急車のサイレンが、どうしたことか当院の前で止まった。

玄関の方が何やら騒がしく、すぐに受付の女の子がとんできた。

股関節脱臼の患者だが、こちらで治療できるかどうか救急隊員が聞いているという。

脱臼の応急処置は整骨院でも出来ることを伝えてもらうと、すぐに担架で患者が治療室内へ運び込まれてきた。

担架で運び込まれた患者は、海水パンツ姿の25、6才の屈強な男性であった。

身長182、3cm、体重85キロというところだろうか、担架からベットに移し状態をみると、左股関節後方脱臼である。(うわ、こりゃあ大変だ)

患者を運び込んだ救急隊員も友人らしい人達も整骨院は始めてらしく、整骨院で股関節脱臼が整復できるのかどうかをしつこく聞いてくる。

整骨院では外傷性の股関節脱臼も対応するのだが、ここでしつこく聞かれる理由が最初よく分からなかった。

専門の医療機関ではなく、何故ここで整骨院に搬送されてきたのかの経緯が判然としない。

整骨院では、脱臼や骨折でも応急的に整復治療ができるのだが・・・?
その理由は後から判明する。


「大丈夫です。すぐに整復しますから」と答えながら、手順通り問診をする。(落ち着け、落ち着け)

患者の表情をみるとひどく憔悴しきっていて、まともに喋るどころではない様子である。

それに両目が真赤に腫れあがっている。

これはどうしたことかと思っていると、何んと脱臼してからすでに二十時間近くも経過しているというではないか。

何と昨日負傷しているのだ。

付き添いの友人の話によると咋日会社の慰安で海水浴に来ていて、海岸で力自慢の同僚と相撲をとっていたところ、砂に足を取られ転倒して脱臼したのだという。

直に救急車を呼んで近くの医療機関に運んでもらいいろいろと手を尽くしたが、どうしても脱臼が整復できず一晩そのままの状態で置かれたままであったということで、本人は脱臼の痛みでそれこそ一睡もしていないというのである。

ますます大変な状況である。

体格もよくこれだけ筋肉が発達しているとなると、脱臼の整復は相当に困難が伴うであろうことはまず予想されるところである。


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しかも脱臼してから半日以上時間が経過しているのであれば、その間に関節周囲の筋肉は相当に緊張しているはずで患部は鬱血してぱんぱんに腫れあがってしまう。

大人でもその激痛で、悲鳴を上げてしまう。

とてもではないが、そのままの状態でまともに眠れるはずもないのだ。

それこそ拷問にも似た状況に置かれていたことになる。

しかも股関節の後方脱臼で血管が損傷したり圧迫されたまま長時間放置されると、大腿骨頭に栄養や酸素が供給されず、最悪の場合骨頭が壊死を起こすことさえあるのだ。

患者に同情するのと同時に、あらためてこれは大変なことになったと思わずにはいられなかった。

苦痛に半分泣きかぶった患者を前に、治療室内は緊迫した空気に包まれている。

すでに治療室に入っていた他の患者さんや、侍合室から身をのり出して覗き込んでいる人達の手前ここは絶対に失敗は許されないといったブレッシャーが当方にのし掛かってくる。

第一、股関節脱臼の整復というのは、当院では始めてのケースなのだ。

膝や肩、顎、手首あたりの脱臼整復なら経験豊富なのだが、股関節脱臼の整復は一度も経験がない。

湿布や国定材料をスタッフにそろえてもらっている間に、同僚の佐藤先生と脱臼の整復手順を綿密に打合せる。


股関節脱臼の徒手整復には、通常施術者が単独で行う術式と二人で組んでやる方法があるが、目の前の患者の体格と脱臼状態からみて相当に強い牽引力がいると判断されたので、今回は後者の二人で整復することにする。

脱臼というのは、外から強い力が加わって関節の運動範囲以上に引伸ばされたり、押し曲げられたとき骨頭が関節部分(関節包という)から飛び出したものをいう。

関節を包む強靭な靭帯を損傷しているわけだから、ここでは単純に関節が外れたなどという状態ではないのは確かである。

整復するには、骨頭が飛び出した状態を元の位置に戻してやるわけであるが、この整復操作には力学的なコツと要領がいる。

特に股関節の周囲は、強靭な筋肉靭帯が包み込んだ構造をしている。

当然、脱臼状態というのはこの強靭な筋肉靭帯に守られた関節包を破って、骨の端(頭)が飛び出てきている。

これを元に戻すのにも、整復する際には強力な牽引力を必要とする。

当然、施術側には相当な腕力が必要なわけだが、今回はその脱臼部位が問題なのだ。

とにかく足や股関節の周囲の筋肉の方が、施術者の腕の筋力より格段に強力なのだから容易には対応できないのだ。

そこで私と同僚の佐藤先生の二人で、準備を整えこの脱臼整復に臨むこととなった。

今回は急患ということではあるが、すでに医療機関で何度も整復操作が試みられているだけに、ここは一回の整復操作でもっていかなくてはますます患部の筋肉の緊張と患者の苦痛とが増すことになる。

しかもこの患者の場合、体格も大柄であるから整復操作そのものに困難が伴うことが予想される。

ここは佐藤先生の柔道で鍛えた強力な腕と腰の力が不可欠であると思った。

早速、整復に邪魔な海水パンッは鋏で切断して取り除き、下腹部にタオルケットをかける。

佐藤先生にベットの上にあがってもらい、私は患者の腹部に柔道の横四方固めさながらに上から覆い被さり、腰部骨盤部をがっちりと固定した。(図を参照のこと)

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これで整復の体勢自体は整ったが、やはり患者自身にも出来るだけ協力してもらわなくてはならないのだ。

意識的に筋肉の緊張を緩めてもらわなくてはならないのだが、こうした状況ではこちらが期待できるような態勢にはなりにくいのだ。

患者に、脱臼は必ず整復できるから出来るだけ体の力を抜き呼吸を合せて欲しいと声をかける。

ここで、「股関節の脱臼の整復はあなたが今回最初ということで、全く整復に自信がないのだが・・・」などと口にしたり、そういう素振りを見せれば患者は不安がって余計緊張するにきまっている。

「大丈夫、当院ではこんな脱臼は週に四、五人はやっとります。まあ、まかしときなさい 」といった調子で、自信満々のでのぞまなくてはならないところである。

そういう表情を懸命につくろうとする。

片手で脱臼した骨頭部分を探りつつ、佐藤先生に徐々に牽引体勢に入ってもらう。

脱臼している下肢は、腰から下の筋肉が過度に緊張してしまっているので自分の意思ではまったく動かせない。

これが脱臼特有の弾発固定という症状である。

その弾発固定状態であっても僅に下肢は他動的に動かせる方向があり、少しづつであるが患者の表情をみながら痛みが少なく、かつ整復し易すい肢位に術者が少しづつ持っていく。

整復態勢に入った時点で患者が息を吐き、吸気に入いる直前に一気に牽引することになる。

すべてはこの要領とタイミングが重要である。緊迫の一瞬である。

すでに佐藤先生が患者の下肢を両手でしっかりと抱え込んでいる。

患者の状態を確認しつつ、佐藤先生と呼吸を合わせて素早く目で合図する。

ほんの一瞬である。

強力な牽引に骨盤がぐっと持ち上がる。患者が叫ぶ。

この一瞬の間に脱臼していた大腿骨の骨頭は関節臼の縁まできている。

ここでぐるっと回旋操作を行ない、患肢を伸展、さらに屈曲、回旋・・・、その一瞬、ゴクッという鈍い整復音が響いた。あっ整復できた!

患者はこの一瞬間、茫然自失となっている。


佐藤先生が間をおいてベットから降りると同時に、私もそれまでの固定の体勢を解いた。整復完了である。

脱臼していた下肢が正常な状態できれいに伸びているのを確認する。

そして患者自身に軽く股関節部分を動かしてもらう。

まさしく一瞬にしてそれまでの苦痛と緊張から解放されたのだから、次第に安堵感に患者の表情が変わっていく。

わあ、よかった、よかった!周囲に笑みがこぼれる。

そして、そこここに歓声が上がる。

患者の状態を確認してベットから抱き起こす。

下半身にタオルケットを巻くと、自分で無事に立ち上がることが出来た。

そこから肩につかまってもらうと、別室まで少し歩いて移動してもらった。

大丈夫、しっかりした足取りである。

ゆっくり足を運びながら、もう一人で普通に歩けるという。(表情はすっかり悪夢から覚めたという感じ)

そこで応急的に包帯固定して服を着てもらう。

救急の担架で運び込まれた重症患者が、帰えるときは回復して一人で歩いて出ていった。

施術者として、これほど嬉しいことはない。 

事実こうした徒手整復だけの治療で、苦しんでいる患者さんから苦痛を取り除いてあげられるということの意味は我々にとって、その職業的意義としてかけがえのないものなのである。


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一息ついて、「股関節脱臼は今回が始めての経験ですよ」と、佐藤先生も満足そうに笑顔がこぼれる。

「一生に一度あるかないかじゃないですか」と、笑顔の私。

ふと足下を見ると、ベット横の片隅に縞模様の海水パンツが一枚放置されたままなのが眼に入った。

いまさっきまで忘れていた季節感がそこにあるような気がした。

いまが夏の盛りなのである。  

「今日もまた、暑くなりますよ」と、どちらからともなくそう言って、また二人とも笑顔になった。

















































denden














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    posted by モモちゃん at 09:53| 備忘録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする