2017年10月23日

中国皇帝が愛飲した益多散ドリンク剤とは?

『錢易』・南部新書』

元気に長生きするためといいながら、何だかお節介な話は昔からあるようです


中国唐の時代の大中3年(849)にある老僧が皇帝(宣宗)に拝謁したという。

錢易』・南部新書・辛「大中三年、東都(洛陽)に一僧進む。年一百二十歳、宣宗、 何の薬を服して此に至るかを問う。
僧對えて曰く。臣少は賤、素、薬を知らず。性本茶を好む。至る處、唯茶是を求む。
或いは出て亦、日に百余椀に遇う。常の如く日に亦、四五十椀を下らず。因、茶五十斤を賜る。保寿寺に居せしむ。」──


唐代の話であるが、日頃からお茶をがぶがぶ飲んでいたら百二十歳まで長生きした坊さんが居たというのである。

この坊さんどこぞでのんびりと暮らしていたであろうに誰かおせっかいな者がいて、 どこそこに長寿の坊主が居りますよというようなことを皇帝に奉上してしまったらしい。

それで、その坊さんはとうとう洛陽の都まで引き出され、宣宗に拝謁することになってしまったというわけである。

皇帝は長寿の坊さんに謁見すると、「どんな薬を飲んだらそのように長生きできるのかのお?」と訊ねる。

特別な薬も飲んだ覚えのない坊さんは、「いえ生来お茶が好きなので日に百杯、少ないときでも四、五十杯ほど飲んでおりますだけで」と答えたわけである。

何のことはない、お茶が好きな坊さんがたまたま長寿だったというだけのことである。

どうでもよいことであるが、坊さんにとってはまったく余計なお世話なのである。
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こういう例はいくつかある。

我が国でも九世紀の薬学者の竹田千継は『神農本草経』で枸杞の薬効を知り、十七歳 より続けて服用していたところ九十七歳になっても髪は黒々として若々しく、周囲の者を驚かせていた。

まわりの(おせっかいな)声もあって斉衡二年(八五五)に以前より体の弱かった文徳天皇に、この枸杞の服用を進める奉上をついつい出してしまった。

これには天皇が大いに喜ばれるとともに、彼の本草学者としての知識と経歴とをかわれたことで、宮廷の薬草園での枸杞の栽培管理の役目を仰せつかってしまった。

しかもその上に側近として左馬寮允にまで任ぜられてしまった。

こうなると竹田千継の日々はやたらと忙しくなり、活力の元であった枸杞茶をゆっくりと飲む暇さえもがなくなってしまって、急激に老化・老衰現象が現れて二年ほどしてあっけなく死んでしまった。

これが余計なおせっかいでなくて何であろうか。 


因みにこういった長寿者・万能薬の存在といった種類の奉上はお上にも特に喜ばれるものであって、瑞兆にかかわることとして紹介者や奉上した者には場合によってはたくさんの御褒美が下賜されたのである。

当然ご褒美目的の奏上も少なくないのはいうまでもないことである。

やはり昔も今も価値ある情報というのは巷にはあるわけであるが、それを受ける方もそれなりに適切に対応していないと詐欺まがいの情報に振り回されてしまうし、逆に有益なニュー スが入ってこなくなる。


しかしながら昔から長寿法やら奇薬というのは、時の権力者が天下に布告してまでしてひろく求めたから実際に宮廷に持ち込まれる機会は特に多かったようである。

たとえば隋の煬帝の時代の奇薬に関する奉状というものが、わが国で編纂された医学書の『医心方』にもそのまま転載されているのでここで紹介してみよう。

この原典となる書籍そのものは中国では早くに散逸してしまっていて、わが国の『医心方』に転載記録されている貴重な医薬情報ということであるから、ここでは特に注目しなければならないところである。

「(古今)録験方に云う、益多散。
女子、臣妾、再拝して書を皇帝陛下に上る。頓首、頓首、死罪、死罪。愚聞く、上善は君を忌まずと。妾が夫、華浮、年八十、房内衰ふ。知る所従り方を得たり。
方は、生地黄、洗い薄く切り、一升の清酒を以て浹さしむ。浹へば乃ち千たび搗きて屑と為す。十分。
桂心、一尺、二分に准ず。甘草、五分、炙る。朮、二分、乾漆、五分を用いる。
凡そ五物、搗きて末とし、篩に下し治めて合する。食後に酒を以て、方寸匕を服すこと日に三たびす。華浮、此の薬を合わせて未だ之を服すに及ばずして病没す。
故、浮に奴あり、益多と字なす。年七十五、病みて腰屈み髪白く、横ざまに歩きて傴僂む。妾、之を憐れみ、薬を益多に與う。
服すること二十日にして腰伸び、白髪は黒く更わり、顔色猾澤、状三十の時の若し。
妾に婢有り、番息、謹善と字なす二人なり。益多以て妻と為し、男女四人を生ましむ。
 益多出て酒を飲み、酔いて帰れば、趣して謹善を取る。謹善、妾の傍らに在りて臥す。
益多追いて謹善を得て、與に交通す。
妾、覚り偸み聞くに、気力多く壮動にして、又微に他の男子に異なるあり。
妾、年五十なるも、房内更に開きて懈怠するを、人は識らず。自ら女情を絶断すること能はず、為して二人を生む。
益多は、妾、番息等三人と陰陽を合わせて極まり無し。時に妾、奴と通ぜしを恥識り、即ちに益多を殺す。
脛を折りて中を視れば、黄髄有り、更に充満す。是を以て、此の方に験有るを知る。
陛下御するに膏を用いれば、髄随いて満る。君、宜しき良方なり。臣妾、死罪、稽首再拝、以て聞す。」


このようにただ漢文を読み下しても、一般には馴染まないのでこれをわかりやすく意訳してみよう。

「(古今)録験方に益多散という処方がある。
ある女が言う。わたくしは再拝して皇帝陛下に書を上つります。頓首して謹んで申し上げます。
わたくしは善いことは陛下に忌みはばかることなく奉上するものときいております。
わたくしの夫華浮は八十歳で腎虚となりましたが、知り合いから一つの処方を教えられました。(中略)

この処方を食後に酒でもって一寸四方の匙の分量を日に三回服用します。
夫華浮はせっかくこの薬を調合いたしましたのに、これを服用しないままに病死してしまいました。
それで、夫には益多という奴隷がありまして、年は七十五になりますが病気で腰が曲 がり髪も白く、横向きに歩いて背中がまるくなってしまっておりました。
わたくしはこれを憐れに思い、この薬を益多に与えました。
二十日間ほど服用しましたところ腰が伸びて白髪も黒く更わり、顔色までがつやつやして見た目には三十代の若々しさとなりました。

わたくしには番息、謹善という二人の婢がありましたが、益多は二人を妻にして男女四人を生ませてしまいました。
益多は外に出て酒を飲み、酔って帰れば、趣くままに謹善に抱きつきました。
謹善は わたくしの側にきて臥しました。
益多は追ってきて謹善を捕まえて、ともに交わったのです。
わたくしが、それとなく窺うと益多は気力が充実していよいよ壯んでありました。
またすこし他の男と異なるところがありました。

わたしは五十歳になりますが、ますます欲情が高まり、どうしようもなく悩んでおりました。
このように自ら女としての情欲を断ち切ることができず、そのまま二人の子供を生みました。
その後も益多は、わたくしと番息ら三人を相手にしまして精力絶倫で極まるところを知りません。
わたしは奴隷と通じたのを恥ずかしく思い、益多をいきなり殺してしまいました。
益多の脛を折って中をみますと黄髄があり、しかもそれは充満しておりました。
このことでこの処方の本当の効能を知ったわけです。
陛下が女を御されるのにこの膏を用いられれば、思いのまま髄が満ち溢れることでしょう。
陛下、これはまことに良い処方であります。臣妾が稽首再拝してここに謹んで申し上げます。」



おせっかいこの上ない話であるが、驚くべき内容の奉状である。

同時に、薬効を示すのにこれ以上の効能書はないのではと思えるほどの迫力がある。

これらの記述内容はフィクションではない。嘘偽りのない話なのである。 

というのは、これの出典元である『古今録験方』を撰したのは有名な甄権先生であり、彼は唐の初代皇帝太宗の寵を蒙った名医としても知られていた。

しかも甄権先生は隋の開皇元年に秘書省正字についた経歴があるだけに、そのとき宮廷内のこうした記録文書にも頻繁に眼をとおす機会があったのである。

さらに甄権先生についていえば、彼自身は百三歳の長寿を全うしたというのだがこれは当時としては記録的な長命でもあったのだ。

益多散はこの甄権先生がその著書に収録している重要な処方の一つである。

このような経緯を考えると、いかにも効能抜群の精力剤に思えてくるから面白い。

さしずめ益多散ドリンクなるものがあってもおかしくはないであろう。

いやはやこのような話を紹介するのも、あるいはおせっかいきわまりないのかもしれないよね。















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ラベル:古今録験方
posted by モモちゃん at 09:23| 歴史奇談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする