2018年03月08日

古代中国の自己免疫療法とは?

馬の小便は水薬なのか?


 
江戸時代に書かれた『耳袋』(根岸鎮衛)に次のような記述がある。

 「吐血とまらざるに、童便を飲んでよし。然れども、宿に小児なければ、他より貰う時はさめてぬるく、心持を損ず。その時はその身の小便を飲んでよし。右は予が親友山 本某、文化の六の年春、吐血していろいろ薬を施しけれどそのしるしなし。或医師、右 の法を伝えけるゆえ飲みけるに、さっそくとまりける由。(中略)ある官医にその事語りけるが、随分医家にその法ある由語りぬ。──」


 「吐血をとめる奇法の事」とあるものの一部であるが、これより中国医学の尿療法に 触れてみよう。

 さてこの吐血をとめる奇法であるが、そこらを捜すと出てくるもので、これは中国の五世紀後 半に書かれた『褚氏遺書』(褚澄)に喉頭出血に人尿を飲むと止血効果があるとあるから、これが一応この奇法の最も古い出典ではないかと思う。


 また唐代の孫思邈の『備急千金要方』には、歯間出血に童子の尿を飲むと止血するとある。

こうなるとどうやら人尿には止血効果があるらしい。

 もちろん漢方医学の原典である『傷寒論』や『金匱要略』にも人尿は薬物として登場している。

ちなみに「少陰病編」の白通加猪胆汁湯を構成する薬物にそれは含まれている。  


尿を飲むということでは、『後漢書』・方術列伝に方士達が尿を飲んでいたことが記録されているから、中国ではそこそこの歴史があるといえよう。


 古代においては、飲尿には不老長寿の効能があるとされたわけである。

そのためかどうかわからないが、何とあの楊貴妃は童女の尿を飲んでいたという話さえある。  

不老長寿と薄命の美女とは縁遠い話しではないかと思っていると、またしても面白い資料が出てきた。

 それは『本草綱目』(李時珍)に紹介されているのであるが、朱震亨が記録している飲尿についての特異な事例がそれである。

 「震亨曰く。小便降火甚だ速し。常に見る一老婦、年八十。貌、四十に似る。其の故 を詢う。常に悪病有り。人、人尿を服すを教ゆ。四十餘年にならん。且つ老健、他に病 無し。──」


 医師・朱震亨が一人の老婦人に会った。年齢は八十歳だという。ところがどうみても外見は四十歳ぐらいにしかみえない。

不思議に思ってその理由を尋ねてみた。

話によると彼女はかっては病気勝ちな体質であったという。

ところがある時、人からあなたのような体質には飲尿がよいと、飲むように強くすすめられたのだという。

実際に飲み始めてもう四十年以上になる。

そのためもあってか年をとっても今は頗る健康だし、これといって病気もないのだというのである。

四十に似るとは外見そのものが四十歳あまりに見えるということである。

 八十歳の老女が四十歳位にみえるということは、見た目には老化がほとんどすすんでいないということである。

 朱震亨でなくてもこれには驚かざるを得ないではないか。  


また清代の宮廷医案(カルテ)が現在まで残されているが、そのなかにある西太后( 一八三五〜1九〇八)の処方にも童子の尿を成分として加えた丸薬があった。(『慈橲光 緒医方選議』

これはもともと生理不順を治す処方であったらしいが、なにやらホルモン代謝に関係してくるような様相を呈してくるからそれなりに面白い記録であろう。

 実際に大陸から我が国にも中国の尿療法は伝えられた。

そして鎌倉時代の時宗の開祖一遍上人(一二 三九〜一二八九)が諸国遊行し、それを世間に広く伝えたというのである。

 では彼は、どこでどのようにしてこの奇法の存在を知ったのか。

これに関して明確な資料はないが、一つだけ手がかりがある。

 一遍上人は若い時、九州の太宰府で修行勉学した経歴がある。

恐らくこの時期、大陸伝来の尿療法の特異な効能を知ったのではないかと思う。

 というのは当時太宰府には重要な政府機関があっただけでなく、ここは大陸に対する文化的な拠点でもあった。

 私はかって太宰府の天満宮に秘蔵されている蔵書の目録を見る機会があった。

夥しい 漢籍のなかに『傷寒論』等の医書があったのを記憶しているが、それだけにここでこうした中国医学関係の典籍に一遍上人が勉学中に触れる機会は充分にあったと思うわけである。

当然こうした根拠なしに万民に広めることはできなかったのではないかと思う。

 なお現代の中医学でも尿療法は取り入れられている。

関心のある方は『中薬大辞典』を紐解かれたい。

そこにはちゃんと「人尿」という独立した項目がある。

























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ラベル:西太后
posted by モモちゃん at 07:29| 歴史ミステリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする