2020年03月28日

旅に命と情熱とを傾けた一遍上人の足跡

世界最古の治療法とは何か? 


江戸時代に書かれた『耳袋』(根岸鎮衛)に次のような記述がある。

 「吐血とまらざるに、童便を飲んでよし。然れども、宿に小児なければ、他より貰う時はさめてぬるく、心持を損ず。その時はその身の小便を飲んでよし。右は予が親友山本某、文化の六の年春、吐血していろいろ薬を施しけれどそのしるしなし。或医師、右の法を伝えけるゆえ飲みけるに、さっそくとまりける由。(中略)ある官医にその事語りけるが、随分医家にその法ある由語りぬ。──」

 「吐血をとめる奇法の事」とあるものの一部であるが、これはいわゆる飲尿療法のことである。

飲尿療法と聴いて怪訝な顔をされる方もおられるであろうが、人類史最古の原始的治療法の根源について触れてみたい。

吐血とまらざるに、童便を飲んでよし。」とはどういうことであろうか?
おかしな話しではあろう。

この吐血をとめる奇法であるが、そこらを捜すと出てくるもので、これは中国の五世紀後半に書かれた『褚氏遺書』(褚澄)に喉頭出血に人尿を飲むと止血効果があるとあるから、これが一応この奇法の最も古い出典ではないかと思う。

 また唐代の名医孫思邈が編纂した『備急千金要方』には、歯間出血に童子の尿を飲むと止血するとある。

こうなるとどうやら人尿には止血効果があるらしいとされる情報に辿り着く。

 もちろん漢方医学の原典である『傷寒論』や『金匱要略』にも人尿は薬物として登場している。

ちなみに『傷寒論』「少陰病編」の白通加猪胆汁湯を構成する薬物には、「尿」そのものが含まれている。  


また尿を飲むということでは、『後漢書』・方術列伝に方士達が尿を飲んでいたことが記録されているから、古代中国ではそこそこの歴史があるといえよう。

 古代においては、飲尿には不老長寿の効能があるとされたわけである。

そのためかどうかわからないが、何とあの楊貴妃は童女の尿を飲んでいたという話さえある。  

不老長寿と薄命の美女とは縁遠い話しではないかと思っていると、またしても面白い資料が出てきた。

 それは16世紀末の『本草綱目』(李時珍)に紹介されているのであるが、朱震亨が記録している飲尿についての特異な事例がそれである。

 「震亨曰く。小便降火甚だ速し。常に見る一老婦、年八十。貌、四十に似る。其の故を詢う。常に悪病有り。人、人尿を服すを教ゆ。四十餘年にならん。且つ老健、他に病無し。──」

 医師・朱震亨が一人の老婦人に会ったらしい。年齢は八十歳だという。
ところがどうみても外見は四十歳ぐらいにしかみえない。

不思議に思ってその理由を尋ねてみた。

話によると彼女はかっては病気勝ちな体質であったという。

ところがある時、人からあなたのような体質には飲尿がよいと、飲むように強くすすめられたのだという。

実際に飲み始めてもう四十年以上にもなる。

そのためもあってか年をとっても今は頗る健康だし、これといって病気もないのだというのである。

四十に似るとは外見そのものが、四十歳あまり程にしか見ないということである。

 八十歳の老女が四十歳位にみえるということは、見た目には老化がほとんどすすんでいないということである。

 朱震亨でなくてもこれには驚かざるを得ないではないか。  

また中国では清代の宮廷医案(カルテ)が現在まで残されているが、そのなかにある西太后(1835〜1908)の処方にも童子の尿を成分として加えた丸薬があった。(『慈橲光 緒医方選議』

これはもともと生理不順を治す処方であったらしいが、なにやらホルモン代謝に関係してくるような様相を呈してくるからそれなりに面白い記録ではあろう。

 実際に大陸から我が国にも中国の飲尿療法は伝えられた。

そして鎌倉時代の時宗の開祖一遍上人(1239〜1289)が諸国遊行した際に、その飲尿療法なるものを世間に広く伝えたという。

 では彼は、どこでどのようにしてこの奇法の存在を知ったのか。

これに関して明確な資料はないが、一つだけ手がかりがある。

 一遍上人は若い時、九州の太宰府で修行勉学した経歴がある。

恐らくこの時期、大陸伝来の飲尿療法の特異な効能を知ったのではないかと思う。

 というのは当時太宰府には重要な政府機関があっただけでなく、ここは大陸に対する文化的な拠点でもあった。

 30年ほど以前に、偶然太宰府天満宮に秘蔵されている膨大な蔵書の目録を見る機会があった。

その夥しい 漢籍類のなかに『傷寒論』等の多くの古医書があったのを記憶している。

そうなると、一遍上人が勉学中にこうした中国医学関係の典籍に触れる機会は充分にあったと思われる。

一遍上人は殊の外、この飲尿療法を広めることに努めている。
当時の民衆もこれには驚いたことであろう。

一遍上人にしても、飲尿療法という奇異な療法であるだけに、当然何らかのしっかりした根拠がないことには万民に広めることはできなかったのではないかとも思う。

十数年前、現代日本でも飲尿療法が健康雑誌で喧伝されたことがある。

さらには現代の中医学でも、この飲尿療法は取り入れられている。

関心のある方は『中薬大辞典』を紐解かれるとよい。

そこにはちゃんと「人尿」という独立した項目があるし、飲尿療法についても詳しく解説されている。


一遍上人

旅ころも 木の根 かやの根いづくにか 身の捨られぬ処あるべき(時宗宗歌)
身を観ずれば水の泡 消ぬる後は人もなし 命を思へば月の影 出で入る息にぞ留まらぬ







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ラベル:飲尿療法
posted by モモちゃん at 09:44| 歴史ミステリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする