2020年06月19日

魏王曹操は何故侍医を殺したのか!?

魏王曹操の侍医・華佗のこと

はるか昔、中国の後漢末期に華佗(か だ、? - 建安13年(208年)という名医がいた。

華佗は、薬学・鍼灸に非凡な才能を発揮した医師であったが、彼がもっとも得意とする医術は何と本格的な外科手術であった。

古代の中国医学でも外科の系譜があったことは不思議なことであり、華佗l以外にこの時代外科治療を標榜した医家は他にはいなかった。

それだけに、彼がどこで誰からこうした外科医術を学んだのかも不明なこともあって、華佗がインド辺りから渡来してきた外国人ではなかったかとする説もある。

インドのススルタ医術や西域の渡来薬物の知識があったであろうことは想像に難くない。

華佗の外科手術そのものについては、歴史書の三国志と後漢書に詳しい記録が残されている。


Guanyu『華佗字元化、沛國譙人也、一名旉。遊學徐土、兼通數經。曉養性之術、年且百歲而猶有壯容、時人以為仙。沛相陳珪舉孝廉、太尉黃琬辟、皆不就。精於方藥、處齊不過數種、心識分銖、不假稱量。針灸不過數處。若疾發結於內、針藥所不能及者、乃令先以酒服麻沸散、既醉無所覺、因刳破腹背、抽割積聚。若在腸胃、則斷截湔洗、除去疾穢、既而縫合、傅以神膏、四五日創愈、一月之間皆平復。』(『後漢書』方術列伝 )




彼は鍼灸や投薬で治せない病の患者の場合は、麻沸散とよばれる麻酔薬を酒とともに投与して患者の意識を失わせたあと、腹部を切り開いて患部を切除し、さらに腹腔を洗浄し切開部を縫合したのちに薬草の軟膏を塗って傷口の治癒を促したとされる。

歴史上最初の麻酔外科手術を行ったということになるが、華佗の外科手術の術式などの情報は彼が武帝・曹操によって殺害されたことですべてが絶えてしまったとされる。

当然のことであるが、ここで言えることは史書に記録があるからといって、これがすべて事実であったとはいえないのではないかということである。

何の検査機器もなく、消毒薬などの化学薬品もない古代にあって、しかも肝心の医学的診断技術も知識も乏しい古代において、そのような外科手術などが行われたなどというのは疑わしいということになるのではないか。

しかしながらこれが単なる古代人の空想であったとしても、古典籍に記録されているとはいえ、果たして空想だけでここまで治療の手順を細部まで詳細に考え及ぶものであろうか?

華佗の外科手術の術式がどのようなものであったのか気になるところであるが、そもそも治療するうえで、このように人の体を切り開き、外科手術を行うという発想はどこからもたらされたのであろうか?

麻酔薬を使うという発想自体、あまりにも専門的かつ画期的過ぎる先駆的発想ではないだろうか。

しかもレントゲンもCTもない時代に病気の根源(病巣)が腹部や頭部にあると特定する診断技術までが一通り揃っているとなると、やはりこれは人類史から考えても俄かには信じがたいことではあろう。

さらにいうならば、外科手術を行うことで患者が回復するという華佗の医師としての経験と確信(医学情報)そのものはどのようにして得られたのであろうか?

華佗は「鍼灸や投薬で治せない病の患者には、麻沸散とよばれる麻酔薬を酒とともに投与して患者の意識を失わせたあと、腹部を切り開いて患部を切除し、さらに腹腔を洗浄し切開部を縫合したのちに薬草の軟膏を塗って傷口の治癒を促した」というように、この一連の治療の流れ自体は現代人にも納得できる西洋医学的な外科手術の術式にも同定され比較できるもののように思えてならない。

華佗の詳しい出自は分からない。

中国人であったであろうが、いわゆる伝統的な従来の中国医学とは異なる医術を行っていることが奇異でもある。

当時のシルクロードを経由してもたらされたペルシャの医術やインドのススルタ医術の情報が大きく影響していた可能性そのものは十分にある。

だがそのレベルがまったく違ってきている。

麻酔薬などには植物系の外来の薬物が使われたということになる。

特に面白いのは、華佗の生理観、病理観としてあるのは「人間は加齢とともに体内に疾穢(しつえ)が溜まってくる」というものである。

この疾穢の蓄積が疾病の原因になるということである。

まるで老化細胞からの代謝物を指しているかのようである。

具体的には疾穢とは何なのか分からないし、これは華佗伝にだけ出てくる語彙である。


『三国志』華佗伝や『後漢書』方術伝には、彼の行った数々の治療や診断の例が記録されているのだが、その症例のいくつかを『後漢書』やウ ィキペディア等から引用する。

1・華佗は陳登を診察した際、陳登の好物だった膾から感染した寄生虫が胃に巣くっていると診断した。治療として煎じ薬を2升作って半分ずつ飲ませ、多くの寄生虫を吐き出させた。華佗は3年後に再発すると言い、果たしてその通りになったが、その時華佗やそれに代わる医者が近くにはおらず、陳登は死んでしまった。

2・県の役人の尹正が、手足が熱っぽく、口の中が乾いて、人の声を聞くと苛立ち、小便が通じないという症状に悩まされていた。華佗は熱いものを食べ、大いに汗が出れば平癒するが、出なければ3日で泣きながら絶命すると診断した。尹正は熱いものを食べたが汗は出ず、果たして診断通りの死に方をした。

3・軍の役人の李成が咳に苦しんで、時に血膿を吐いていた。診察した華佗は病原は肺ではなく腸炎と診断し、さらに18年後にちょっとした再発があるからと、その分も合わせて粉薬を出した。その5・6年後、李成の親類に同じ症状になった者がいたので、李成の親類は後で華佗から貰って来るからと李成に頼み、予備の薬を融通してもらった。親類は治癒すると、約束通り華佗のいるに向かったが、丁度華佗が曹操に捕縛され、当の薬は手に入らなかった。薬のないまま李成は、華佗の診察を受けた18年後に病が再発して死んでしまった。

4・重病に苦しむある郡守の様子を診たところ、激怒させるのが最も効果的な治療法だと診断する。そして華佗は高額の薬代を貰いながらも治療を行わず、ついには郡守の悪口を書いた手紙を残し去って行った。これに郡守が激怒したところ、たちまち数升の血を吐いたことですっかり病気は治ってしまった。

5・東陽県の陳叔山の一歳の男の子が下痢が止まらず次第に衰弱していった。父親が心配して方々手を尽くしたが子供の病状が良くならいことで、名医として名の聞こえた華佗のもとに遠路訪ねてきた。 華佗は一通り子供の病状と経過を聞くと、父親に向かって次のように説明した。「その子の母親は次の子をすでに妊娠しているはずだ。そのため母乳中に本来含まれるはずの母親の陽の気が体内の胎児を養うためにほとんど吸収されてしまい、その母乳は子供を養うには不十分な冷たい陰の気に偏ってしまっているのだ。だからその子がいまのまま陰の気が充満した冷たい母乳を飲み続ける限り、この下痢の症状は回復しないだろう」と伝えた。

6・曹操の武将李通の妻が重病になったとき華佗は、以前流産した際の胎児が残っているためと診断した。李通は胎児はすでに降りたと言ったが、華佗は胎児は双子であり、いまだに一人が残っているままであるのが病因と診断した。果たしてその通りミイラのように石灰化した胎児が体内から取り出された。


ここに出てくる「石灰化した胎児」とは何なのか!

胎児が体内で石灰化するとは一体どういうことなのか?

調べてみるとそのような症例があるということである。

この症例のように胎児の遺体が石灰化してしまうことは「石児」または「石胎」と呼ばれるもので、非常に珍しい事例であるが、これがときどき国際的なニュースとして紹介されることがある。

「91歳女性の子宮に石灰化した胎児」のニュース
チリ西部の小さな町で、91歳の女性の子宮の中から石灰化した胎児が見つかった。女性は60年以上前の妊娠に気づいていなかったという。
http://www.cnn.co.jp/video/14724.html
2015.08.05 Wed posted at 11:27 JST


母親の体内に36年間、胎児の骨格を摘出 インド
http://www.afpbb.com/articles/-/3024138

82歳老婆の腹に“石灰化した40歳の胎児”が発見される ― 人体の驚異「石児・石胎」とは?
http://tocana.jp/2013/12/post_3376_entry.html



その他にも華佗は小児疾患や食中毒についても巧みな治療を施している。

華佗は医者としての名声がひろく知れ渡ると、後漢の丞相・魏王曹操の侍医となった。

このとき曹操の侍医になったのは彼自身が望んだことではなく、そのように時の権力者に強制されたに過ぎなかった。

華佗の希望は自由な立場で医者としての仕事に日々励みたかったのであった。

このことが後に悲劇を招くこととなる。

曹操には酷い頭痛の持病があり華佗の鍼治療をたびたび受けていたのであるが、あるとき激しい痛みが突然再発した。

華佗は再度呼ばれて治療したのであるが、頭痛の原因を問われた際に華佗は曹操に脳外科手術を提案した。

これは歴史書だけではなく『三国志演義』にも書かれていることである。

物語の
『三国志演義』では、頭痛やめまいの持病に苦しんでいた曹操に召し出されたとき、華佗は曹操の病根は頭内にあるため鍼や薬の治療は効かないと診断し、「まず麻肺湯を飲み、その後に斧をもって脳を切り開き、風涎を取り出して病根を取り除きます」と治療法を曹操に告げたのである。

これにはさすがの曹操も驚愕する。

お前はわしを殺す気か!」と激怒する曹操に対し、華佗は関羽が毒矢が刺さった肘の骨を削られても少しも動じなかった事を引合いに出して、是が非でも外科手術を受けるように説得する。

しかし猜疑心の強い曹操は、「脳を切り開く治療法などこれまで聞いたことがない。お前は関羽と親しかったから、治療にかこつけ俺を殺して関羽の仇を討つつもりであろうとさらに激高すると、そのまま華佗を投獄して拷問にかけた末に殺してしまった。


この部分は物語の創作なので事実なのかどうかの確認はとれないが、華佗の医術がそれほどに革新的で神妙であったということである。

ただ華佗が曹操によって殺されたことだけは史書にはっきりと記されている。

曹操は名医華佗を侍医として手元に置きたがったのだが、華佗は曹操の下で拘束されるのを嫌って、妻が病気であると偽って自分の家に帰宅してしまったのである。

このことが偽りと分かり曹操の逆鱗に触れたことで、華佗は捕縛投獄されてしまいついには殺されたのだという。

華佗は牢獄内で、多くの人命を病から救うことが出来るとして彼の外科手術の術式などを詳しく記した医書を書き上げ、それを牢番の役人に託そうとしたが、牢番は禍が及ぶことを恐れてその医書をけっして受け取ろうとしなかった。

華佗はそのことに落胆してその医書を自らの手で焼却したと『後漢書』の伝にはある。


実は数十年前に華佗の医術や鍼灸治療について調べたことがあって、「鍼灸師からみた華佗の医術」という論考を東洋医学関係の専門誌に発表したことがあった。

奇しくもこれが後に、中国の医学専門雑誌に翻訳されて採録された。

どうやら拙論が本場中国でそれなりに評価されていたらしい。














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ラベル:猜疑心
posted by モモちゃん at 15:02| 歴史的瞬間 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする